
水面の下では
夜にひらく花がある
深緋の山の端に太陽がしずむころ
そこでは露草色の光をのばしながら
西から太陽がのぼってゆく
森はなおいっそう青黒くかがやき
埋葬された痛みが鳥のように枝に憩う
水の中を河が流れている
目に見えぬ流れは時おり強い力で
見慣れぬ岸辺へ運んでゆくが
纏いつく温度は変わらず
胎内のようになつかしい
眠りから覚めた痛みや
解放された願いは
夢の中に新たな色彩を織りあげる
そうして 白銀の夜がやってくると
イメージや言葉は水面へ浮上し
人知れずそこに一輪の花を咲かせる
添付絵画:金子朋樹「水鏡」、F25号(53.0×80.3cm)、紙本彩色
撮影:松山圭介